私の中のグレートマザー
今から数十年前、テレビをつけていたらたまたま始まったドキュメンタリー番組。
どこかの観光猿山を取材している”カメラマン”を追った番組でした。
そのカメラマンの注目していたのが、その大きな猿の集団で一番高齢の「メス猿」
ここから彼女のことを グレートマザー と呼びます。
<ご注意願います>かなり時間が経過した、たった一度の視聴の記憶で私オリジナルになっているかもしれません。
観光用に日中は餌付けされ、夕方には寝床である山に帰る大きな猿の群れ。
その中で、もう何年も自分では子供を産まなくなったけれど、母親が病気やケガで亡くなった孤児の子ザルを育てたり、一人前になる前の子ザルを分け隔てなく世話をやく グレートマザー。
彼女の周りにはいつも子ザルたちが遊び、背中に小さい赤ちゃん猿をのせた若いママ猿が、さも何か相談でもしているかの様子で一生懸命毛づくろいをしていたり、若い男猿の喧嘩も興奮が過ぎるようだと、グレートマザーが現れるだけで静かになったりもして、存在感がとても大きいのが見てとれた。みんなが毛づくろいをするので、高齢とは思えないほどの毛並みの”グレートマザー”
ボス猿ですら近くと通るとき、ほんの一瞬彼女を見る。幼いころ甘えさせてもらったのかもしれない。
晩秋の午後、スッと彼女が猿山から離れだした。
いつもは移動の時すら子ザルや若いサルがワイワイいるのに、誰もついていかない。
方向はいつもの寝床の山の方ではない。
そのうち粉雪が舞いだした。
まだ日はあって明るい。
冬支度がすんで葉をすっかり落とした明るい雑木林の下草の笹野藪で、以前から決まっていたかのように静かに腰をおろした。
カメラマンは、彼女に距離は取りつつも正面からカメラをかまえた。
彼女はカメラのレンズを通して真っすぐカメラマンの目を見て、そしてうずくまった。
降り出した粉雪が少しづつ激しくなり、彼女を包んで彼女のまあるい背中もわからなくなるほど、一面の雪になった。
映像のまま記憶に強く残っている物語。
脈略もなく、ふっと思い出す映像。
私は、いつのまにか彼女を”グレートマザー”と呼んでいた。
私は未だに彼女からなにも学べていません。
今日もありがとう。
明日もよろしく。
yawarakayoshi